モビルサウナ開発秘話⑥
MS開発秘話第6話「サウナ、出撃す」
首都圏への突入を果たしたモビルサウナであったが、
それは同時に敵の勢力圏内への侵入と同義であった。
そして、その姿は2022年9月24日、山梨県北杜市、
釜無川の河原にあった。
「あれがサウナだな」
「うん。青い妖星と言われるほどの君がしとめられなかったサウナとはね」
「わざわざ君が出てくることもなかったと言いたいのか?」
「いや、友人として君を迎えに来ただけでもいい」
「首都圏を突破してきたサウナであるということをお忘れなく」
「ああ。その点から推測できる銭湯力を今、計算させている。君はパリラ掃討作戦から引き続きだったんだろ?休みたまえ」
「お言葉に甘えよう。しかし、慈恩十字勲章ものであることは保証するよ」
「ありがとう、これで私を一人前にさせてくれて。姉に対しても私の男を上げさせようという心遣いだろ?」
「フフッ、はははは、ははは!」
「笑うなよ、社員が見ている」
海での実戦を経験したMS−02は、次なる戦地、河原に赴いたのだった。
この日、朝から快晴に恵まれ、残暑を思わせる秋晴れの日差しに気温も上昇していた。
「申し上げます。あのトラックは新型のモビルサウナの一機のようだとの報告が入っております」
「モビルサウナ?あれがか?あれが新型モビルサウナだというのか?」
「は、火力が並のサウナのようではないと」
「モビルサウナにはモビルサウナで行け。三機あるはずだな?」
「は」
「包囲部隊に告げたまえ、川下に逃がしてしまっては
制空圏内に飛び込まれるかもしれぬ。
これ以上連中を前進させるな、とな。よいな?」
「は、かしこまりました!」
秋晴れの釜無川は、鮎釣りの絶好のシーズンでもあった。
「やあ」
「サウナか?」
「なぜあの機密のすごさを教えてくれなかったのだ?」
「言ったさ、山梨県十字勲章ものだとな。次のチャンスを狙っているんだろ?」
「ああ、抜かりはない」
「俺も協力する。君の手助けができるのはうれしいものだ!」
「助かる、君の力を得れば百人力だ。これでNさんにも実力を示すことができる」
「Nさんは君の直接の上司だったな?」
「私はよい友を持った」
「水臭いな、今更。はははは!」
男たちは、初秋の日差しに煌めく川面に、何度も体をひたし、
鮎とワインに舌鼓を打つのであった。
時に、この日、社長北原の50歳の誕生日であったことは誰も知らない。