ウッドショックについて

報道でも、耳にするようになってきたウッドショック。
オイルショックになぞらえてウッドショックなんでしょうか?

実際には、供給不足によるものなら、オイルショックは
和製英語なので、オイルクライシス(石油危機)で、
木材はウッドクライシスなんでしょうね。
一般的にウッドショックと言われているので、ここではウッドショックとします。

このウッドショックの要因として様々なものが挙げられます。

①COVID-19(新型コロナウィルス)
コロナの影響で住宅販売が落ち込むという予想をたて、北米をはじめ
多くの製材所が30%の減産をしました。しかし、予想に反してアメリカでの
住宅需要は伸び続け、そこにステイホームのDIY需要がぶつかったことが
影響しています。
2020年4月のパンデミック期は新築着工件数80万戸(20%減)
2021年は前年比で14%~20%増加となる見込み。

また外食やエンタメに使用するお金が投資に回り、
株式などで資産を増やした層を中心に、
低金利のうちに住宅建設資金をローンを組む動きがあり、
ステイホームでリモートワークとなったことで、
都心の通勤圏の狭い部屋から郊外の大きな別荘で過ごすという需要が
生まれたことも影響しています。

ステイホームで家で過ごす時間が増え、日用品などを含め、
宅配サービスを利用する人が増え、物量が増えた一方で、
健康対策で職場の人数制限、移動制限などで荷物を運ぶ運転手が
確保できないという事態に陥りました。
運転手への報酬が上がっていき、毎日働かなくても
十分に暮らせていける収入が入り、更に運転手不足という悪循環に。

このような状況から、納品からコンテナの回収に時間がかかり、
いち早くコロナを収束させた中国で物量が増えました。
結果として、多くのコンテナが滞留、動きが遅くなり、
コンテナ船が減便され、コンテナ船は常に積荷で
満杯という状態です。積み下ろしにも時間がかかり、
コンテナ、コンテナ船の双方が渋滞しているような状態になっています。
コンテナ船は通常60日ほどで欧州から日本に届くものも
90日近くかかるようになってしまっています。
※1か月近く分の到着遅れ→在庫減
※スエズ運河での座礁事故も若干影響がありました。

ようやく、元の状態に戻りつつありますが、コロナウィルスも
再拡大しているので予断を許さない状況です。

②松くい虫/山火事の被害
松くい虫の被害が北米で広がっています。松くい虫の被害にあうと
木は枯れてしまいます。水分を失った木は、大変燃えやすく、
北米で起きている山火事の60%以上は松くい虫の被害にあった森と
言われています。

2020年の北米の山火事の件数は約52,000件360万haで約3億m³の丸太が
焼失しています。私の計算が確かなら北米の住宅サイズなら370万棟分です。

松くい虫の被害は主に北米で見られていましたが、ここ数年で
欧州にも被害が拡大してきています。
2015年には13,000m³が、2019年の時点で100,000m³を
超える木材が被害を受けています。

被害にあった分、全体の木材量が減ります。
カナダの産地では持続可能な開発のため、
木材の伐採制限をかけています。2012年比で15%増。
欧州も今後状況が悪化すれば、伐採制限などがかかり、
木材の価格が上がる可能性があります。

③ロシアの関税引き上げからの禁輸措置への移行
2021年年初にロシアが輸出用丸太の関税を更に引き上げ、
米国向けに家具を生産している中国と近隣諸国の
丸太購入原価が値上がりをしています。
中国の家具企業は丸太購入するため、値上がりする
丸太を購入して、木材の争奪戦に拍車をかけています。

一方で、関税の値上がりにより、中国の家具企業は原材料の
供給先をロシアから欧州にシフトし始めています。
そのため、欧州でも木材争奪戦が激化している。

また、ロシアは2021年7月からグリーン材(乾燥前の製材品)に
関しても関税を引き上げを行い、欧州とのシェア争いに参入する。

その状況下でロシアは2022年から丸太の禁輸措置が始まり、
ロシアから丸太を輸入している中国はNZに切り替えを始めている。

④他国の関税政策
アメリカの関税政策
トランプ前大統領が中国からの輸入品に10%の関税を課し、
報復関税として、中国は米国からの丸太に25%関税を課しています。
その為、2020年の8月には、北米から中国への丸太の販売は
80億ドルの売上減となっています。
ひとつの森で伐採されたすべてが中国に輸出されるわけではないので
これだけの金額が減れば、当然、伐採業者、製材所、周辺産業にも
影響がでます。

カナダからの輸入関税を2017年に24%に引き上げたが、
2020年に住宅需要の増大から9%まで引き下げた。
これらの結果、2018年に600$まで値上がりしていた製材品が
2020年には250$まで値下がりし、その結果、多くの製材所が
閉鎖に追い込まれ、木材供給能力が低下した。

⑤日本で伐採できる樹種と伐期
この供給不足の中、欧州の製材会社は高値販売できる北米への
販売先を転換し、日本市場への木材供給が減少した。
しかし、日本では木材の供給能力が低く、杉などの本来、
屋根板や壁材と目的で植樹されたものは強度が安定しないため、
柱などの構造用として使用するには集成材などのエンジニアウッドとして
使用したいところですが、すでに丸太の伐採の時期を過ぎてしまった場合、
柱の木取りをするには大きく育ちすぎて、採算が取れず、
価格に転嫁しなければならないのです。

また、ハウスメーカー大手でいち早く国産材への切り替えを
進めていた会社もあり、多くの国産材が抑えられてしまっていて、
中小の工務店は高い材料を購入せざるを得ない状況となっています。

⑥投資対象(先物/SDGs/環境)
木材も先物取引で投資対象として一般的になってきており、
ナスダックでも取引が行われています。
2020年3月には250$だったものが、2021年5月には1600$を超え、
現在では530$まで下がり、底値を探っている状況です。

さらにSDGs(持続可能な開発目標)として、建築材料で注目されているのが
木材です。欧州で開発された集成材、CLTなどを利用し、
以前では考えられないような木質構造部材を使用した
ビル、マンションなどが建てられています。

二酸化炭素の排出に関しても、植物は二酸化炭素を吸収し酸素に変えることから、
カーボンニュートラルの重要な位置付けにあり、
植林、成長、伐採のサイクルを持続的に続けることにより、
多くの二酸化炭素を抑制することができます。
また、火力発電においても、石炭と混焼することで二酸化炭素排出量を
減らすことが可能となり、木質バイオマス燃料としても注目されています。

このような複合的な要因で、今回のウッドショックは起きたのだと思います。
現在でも、松くい虫の被害は拡大していて、
山火事は、北米、アマゾン、ロシアと様々な地域で広範囲で起きています。
また、北米では多くの製材所が建設予定となっています。
そのため、ある程度、価格は落ち着くと思いますが、しばらくは
木材価格は高止まりすることが予想されます。
木材はそれだけ価値のあるものになっているのです。
この価値の変化こそがウッドショックなのだと思います。